弁護士の川上有です。
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北の峰で「取調べへの弁護人立会」についてのお話するのも、これで4回目(2025年夏号の続きをご覧になりたい方は、「4」にお進みください。)。
その中で、捜査官(検察官、警察官)は、長時間、何日間も被疑者を孤立化させた中で、恫喝や誤導、懐柔などを含む取り調べを行う、ということを述べてきました。
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しかし、なぜこのような取調べが可能なのかは、捜査側の事情という点からみても、実は不思議なのです。
皆さんが、テレビや小説などで知る捜査は、大体が大事件で、捜査本部が設置され、何人も、あるいは何十人もの捜査官がいて、その中の一人か二人が被疑者の取り調べに当たります。
ところが、実際の事件の圧倒的多くは、警察官がひとり、せいぜい二人で捜査します。1?2名の捜査官しかいないのに、そのうちの一人が、朝から晩まで取り調べを行っているのです。
他方で、例えば事件が発生すると、事件現場周辺の聞き込み、被疑者の足取り捜査や、関係者からの事情聴取、犯罪現場の実況見分、被疑者の過去の動静などの捜査、被害者との関係性の捜査、日々収集されてくる証拠の整理、鑑定依頼、鑑定結果の精査など、行うべき捜査は山積しています。それなのに、捜査能力、人員の50%とか100%を投入して、取調べを行っているのです。中には黙秘する被疑者もいます。そういう被疑者の取調べとは、捜査官と被疑者とにらめっこをしているのに等しいのです。それを何時間にもわたり、何日間にわたりやり続けるというのが、現在の捜査手法の中心なのです。
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ね、どう考えてもおかしいですよね。常識的にこれだけの労力・時間をかけることは、費用対効果の面で見合わないですよね。しかも、被疑者を逮捕・勾留すると、捜査官には23日間の期間制限がかけられる。この期間内に裁判で負けないだけの証拠を確保しなければならないのですから、時間との勝負といえる。時間との勝負のはずなのに、にらめっこの取り調べを、捜査員の全勢力の相当な部分を費やすことは、全く合理性がないように見えませんか。
しかし、実は、このような被疑者を孤立化させた中で行う長時間の取り調べという手法には、十分な見返り、リターンがあるのです。そして、そのリターンがあることこそが冤罪の原因なのです。
(北の峰2025年夏号掲載はここまで)
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例えば死亡した被害者と被疑者の人間関係が不明であるという事件を想定しましょう。実際の人間関係は、事件の1年前に同じ病院に1週間入院しており、病室も同じだったとします。
こういう事実って、聞き込み捜査をしても、被害者の家族からの事情聴取をしても、なかなかわからないことがらです。被害者、被疑者の所持品に同じ病院の診察券があったとしても、その二つを関連性をもって考えることは必ずしも容易ではありません。もしかしたら感のするどい捜査官が、同じ病院に通院していたことに敏感に反応して、その病院に捜査に行くこともありうるかもしれません。しかし、そのような場合でなければ、いくら網羅的に捜査しても明らかになることは難しい。明らかになる場合があるとしても、相当の時間と労力を要するし、運も必要なのです。
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ところが、被疑者を取り調べて、被害者との人間関係を知ることができれば、ことは簡単である。その病院に行き、二人の入院歴を調査すれば、すぐに裏付けが取れる。他の同室者も判明し、事情聴取を行うことで、被疑者が被害者からお金を借りていた事実が明らかになるかもしれない。それら事実を前提にさらに被疑者を取り調べることで、返済ができていなかったことが明らかになったとしましょう。そうすると、人間関係だけでなく、被疑者による犯行との動機にまでたどり着くことができるのです。
これらを被疑者の取調べなしにたどり着くことは至難の業なのに、被疑者を取り調べることで、相当容易に判明する可能性があるということがわかります。
要するに、被疑者を取り調べることは、他の捜査よりも、重要な情報や証拠が容易に得られる可能性が高いということなのです。これが捜査官の捜査能力の多くを被疑者の取り調べにかけるだけのリターンがあるという意味です。
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被疑者取調べという捜査手法には、合理性という点において十分な正当性があるといえそうですね。
そして、そのような被疑者取調べという捜査手法を選択すること自体は、非難されるべき理由はないように見えます。むしろ、国税を用いて犯罪捜査を行う以上、より合理的な捜査手法を選択することは、求められているとさえいえます。
そうであれば、被疑者取調べを非難する弁護人の主張は、それ自体問題なのではないかとの見方も出てきそうです。
しかし、そうではありません。この被疑者取調べという捜査手法は、ぬぐいがたい重大な欠陥を抱えているのです。
以下、次回
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