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目次

弁護士の笹森学です。
袴田事件について報告します。

1 再審開始決定、確定

2023年3月13日、最高裁から差し戻され2度目となった第2次再審請求審の即時抗告審で東京高裁は静岡地裁の再審開始決定を支持し、検察官の即時抗告を棄却する決定を下しました。開始決定後9年目のことでした。3月20日、東京高検は特別抗告を断念、再審開始が確定し、今後は静岡地裁で再審公判が開かれることになりました。

2 袴田事件とは

袴田事件とは、1966年6月30日午前1時過ぎころ、静岡県の旧清水市でみそ製造会社の専務一家4人が殺害され、金品を奪われ、その自宅が放火された事件です。同年8月18日、従業員だった袴田巖さんが逮捕されました。巖さんは、否認を続けていましたが、連日の長時間に亘る取調べに遂に屈し、勾留満期直前の9月6日、自白を余儀なくされました。巖さんは、公判で、自白は強要されたものだとして全面的に否認しましたが、一審の静岡地裁で死刑判決を下され、高裁、最高裁が支持して死刑判決が確定しました。

3 一審の特異な裁判経過

袴田事件は特異な経過を辿ります。
当初、検察官は、巖さんはパジャマの上に雨合羽を着て、クリ小刀で凶行に及んだとしていました。ところが、裁判途中の1967(昭和42)年8月31日、みそ工場の1号タンクから血染めの5点の衣類(灰色スポーツシャツ、鉄紺色のズボン、白色半袖下着、白色ステテコ、緑色のブリーフ)が発見されました。これらは工場で使われていた南京袋に入れられており、引き上げた時にはタンク内のたまりの水が滴ったとされていました。また、この衣類には被害者4人の血液型が付着し、半袖下着の左肩部分からは巖さんと同じB型の血液型が検出されました。ズボンには「B」というタグが付いており、これは「B」体というサイズを示すものと認定されました。さらに、5点の衣類の発見後、このズボンの端切れが巖さんの実家から発見され押収されました。検察官は、第17回公判で冒頭陳述を一変、巖さんは5点の衣類は犯行着衣かつ巖さんのものであり、巖さんは5点の衣類を着て凶行に及んだと主張しました。巖さんは、5点の衣類は自分のものではないとして改めて否認しましたが、静岡地裁は死刑判決を言い渡しました。

4 東京高裁の判決

東京高裁では、ズボンの装着実験が行われました。ズボンは腿の所までしか上がらず巖さんはこのズボンを履けませんでした。しかし東京高裁は、巖さんが勾留中に太ったなどとして装着実験の結果を言い繕い「履けないズボン」で死刑判決を維持、巖さんの控訴を棄却しました。

5 再審開始決定

巖さん直ちに再審を請求しましたが(第1次)、裁判所は27年もかけて結局再審請求を認めませんでした。この間、巖さんは精神の安定を失い、面会を一切拒否するようになりました。そのため巖さんの姉のひで子さんが巖さんのために、2008年4月、第2次再審請求を申し立て、静岡家裁から保佐人に選任されました。第2次再審請求審ではみそ漬けした衣類と血痕は短時間で黒褐色化するという支援者が行ったみそ漬け実験報告書を新証拠として提出しました。審理の中で静岡地裁は証拠開示を勧告、発見直後の5点の衣類の写真や「B」のタグは色を示すという供述調書などが開示されました。その写真の5点の衣類の生地は白っぽく、かつ血痕は明らかに赤みを帯びていました。そこで弁護団はDNA鑑定を申し立て、静岡地裁はこれを採用、鑑定人として筑波大学の本田克也教授、神奈川歯科大の山田良広教授を選任しました。そして両者の鑑定は半袖下着の右肩に付着していた血痕のDNAは巖さんのものではないというものでした。鑑定人尋問では弁護人・検察官の激しい応酬がなされ、この中で、山田教授は自分の鑑定には自信がないとして鑑定書を撤回してしまいました。検察官は、最終意見書提出日に各界の科学者を総動員して唯一残された本田鑑定を攻撃する大量の証拠を持参しました。しかし静岡地裁(村山浩昭裁判長)は提出を認めず、2014(平成26)年3月27日、再審開始決定を下しました。

6 死刑及び拘置の停止、47年ぶりに釈放

同決定は、5点の衣類は捜査機関によるねつ造の疑いがあり、袴田氏の拘置を続けることは「耐え難いほど正義に反する」として「死刑及び拘置」も停止しました。再審史上初の画期的なものでした。検察官も弁護人も驚愕し、検察官は裁判体に面談を求め、死刑及び拘置の停止の執行停止を求めましたが裁判体は拒否、検察官は死刑及び拘置の停止の執行停止を求める抗告を申し立てました。東京高裁は「ひとまず開始決定には不合理な点は認められない」として抗告を棄却、巖さんは47年ぶりに釈放されました。

7 マスコミ対応

巖さん一行はパパラッチとの追跡劇を経て、テレビ朝日が手配した高級ホテルのスウィートルームに投宿、私はこのホテルで合流しました。富川悠太キャスターを始め報道ステーションが独占取材を申し入れて来ましたが、ロビーに溢れる報道陣に今後も報道してもらうためには公平な対応が必要と判断、何とかテレビ朝日に引き取ってもらいました。その結果、高額の宿泊料のため弁護団の一員がカードを切る羽目になりました。

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