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 弁護士の小野寺信勝です。

【1】 はじめに
 北海道警察は、2月26日、北海道道議会総務委員会において、警察官らによる原告らの排除行為等の法的根拠について説明しました。道警は9つの事案について説明しましたが、すべてを解説すると長くなるので、国家賠償訴訟の原告の事案について、道警の説明が破綻していることを解説します。

【2】 JR札幌駅前の男性の排除行為
 まず、JR札幌駅前で「安倍やめろ」と叫んだ男性を排除した法的根拠は、警察官職務執行法4条第1項及び第5条であると説明しました。

(1)警職法4条は無理筋です
 警職法4条は、警察官が市民を危険な事態から避難させるための規定で、「人の生命若しくは身体に危険」を及ぼす等の「危険な事態がある場合」に、「特に急を要する場合」には「危害防止のため通常必要と認められる措置」をとることができる旨定めています。

 ここでいう「危険」とは抽象的危険では足りず、現実に具体的な危険が生じていることが必要とされています(詳しくは2月20日のコラムを御覧ください)。

 道警は、警職法4条にいう「危険」が生じていたかについて、「当該男性は、意見を異にする多数の聴衆に囲まれた状況であったところ、多数の聴衆との間で小競り合いに発展した場合には収拾が付かなくなる可能性があり、その危害を回避するためには、直ちに対処する必要があったことから、特に急を要する場合と認めた」と説明しました。

 JR札幌駅前で男性が排除された状況は、ヤジポイの会のnoteで見ることができます。
 https://note.com/yajipoi/n/nec9d9f247e79?creator_urlname=yajipoi#IyuRn

 その動画を確認すると、撮影開始から26秒後に「安倍やめろ」と叫びはじめ、34秒から原告への撮影が開始され、37秒に制服警察官に身体を掴まれる様子が確認できます。道警は原告が「安倍やめろ」と叫びはじめてから警察官らに排除されるまでは、約11秒しか経過していないことがわかります。

 道警はこの11秒の間に聴衆との間で当該男性の生命・身体に「現実に具体的な危険」が生じていなければ、警職法4条を根拠に排除することができません。しかし、原告への撮影が開始された34秒から排除開始までの37秒までの動画を確認しても、周囲の聴衆との間でトラブルは全く生じていませんし、当該男性が聴衆から暴力を振るわれそうになっている様子(例えば、拳を振り上げるなど)も確認できません。

(2) 警職法5条も無理筋です
 警職法5条は、「犯罪がまさに行われようとするのを認めたとき」に「急を要する場合」に「制止」できると定めています。これは第4条と異なり、犯罪を行う加害者を制止する規定になります。「犯罪がまさに行われようとするのを認めたとき」も、単なる抽象的危険では足りず、刑罰法規に該当する違法行為が行われる可能性が高いことが客観的に明らかであることが必要です。

 道警は「当該男性は興奮状態で、現に周囲の聴衆との間でトラブルが生じており、小競り合いをきっかけとして暴行、傷害等の犯罪行為に発展するおそれがあったことから、犯罪がまさに行われようとするのを認めたときに該当すると判断し、直ちに制止しなければ、犯罪行為が行われてしまうおそれがあったことから、急を要する場合と認めた」「具体的に発生していたトラブルとしては、声を上げた男性に対し、他の聴衆が拳で上腕を強く押すなどの行為が認められたほか、周囲の聴衆から大声を出している当該男性に対する批判的な言動が認められた」と説明しました。

 この説明が破綻していることも動画を見れば明らかです。当該男性は排除されるまで「安倍やめろ」と叫んでいるだけで、当該男性の関心は一貫して安倍首相に向けられていました。聴衆に敵意を向けたり、拳をあげるなどの様子はなく、暴行、傷害に及ぶような素振りはありません。

 そもそも道警の説明では、他の聴衆が拳で当該男性の上腕を押すと言うのですから、加害者はその聴衆であって、当該男性をいわば加害者として排除するのは本末転倒です(道警の説明では、安倍首相の支持者を暴力に及ぶ危険な存在と位置づけていますから、政権のご機嫌を損ねないかと心配になるほどです)。

 このように、この動画を見れば、警職法4条と5条を根拠に、JR札幌駅前で当該男性を排除できないことは誰の目から見ても明らかだと思います。

【3】 その他の排除行為の説明は省略します

 その他の排除行為は次のように説明しています。

 当該男性が三越前で警職法5条に基づき排除された行為は、「安倍総裁が登壇する街宣車の直近に現れて突如大声を出した上、更なる接近を図る様子が認められたため、その態様からして、安倍総裁をはじめとした周囲の人物との間でトラブルを起こして危害を加えるおそれが認められた」

 JR札幌駅前で「増税反対」と叫んだ女性を排除したのは、警職法4条及び5条が法的根拠であり、「当該女性は、警察官を押しのけて前方の密集状態の聴衆へ向かって行こうとするような興奮状態であり、このままでは周囲の聴衆との小競り合い、又はその聴衆に後方から接触することをきっかけとして、暴行、傷害等の犯罪行為に発展するおそれ」があった。

 これらについても解説しようと思いましたが、あまりに荒唐無稽な主張なので、省略します。それぞれインターネット上で動画が公開されているので、確認してみてください。

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