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 弁護士の小野寺信勝です。

【1】 ヤジ排除 道警「問題なし」の報道

 2月20日付け北海道新聞朝刊で、道警が昨年7月の安倍晋三首相の街頭演説中に批判の声を上げた市民を排除した問題で、「法令を遵守しており問題ない」とする調査結果をまとめたと報じられました。報道によれば、警察官職務執行法4条の「避難等の措置」と同5条の「犯罪の予防及び制止」などが法的根拠として示されたといいます。

 しかしながら、道警の排除行為は、警察官職務執行法4条・5条のいずれも法的根拠になることはありません。


【2】 警察官職務執行法4条は根拠にできません

 まず、警察官職務執行法4条は、「警察官は、人の生命若しくは身体に危険を及ぼし、又は財産に重大な損害を及ぼす虞のある・・・危険な事態がある場合においては、その場に居合わせた者・・・に必要な警告を発し、及び特に急を要する場合においては、危害を受ける虞のある者に対し、その場の危害を避けしめるために必要な限度でこれを引き留め、若しくは避難させ・・・危害防止のため通常必要と認められる措置をとることを命じ、又は自らその措置をとることができる」と定めています(第1項)。

 第4条は、人の生命もしくは身体に危険を及ぼす事態を対象としています。そして、その「危険」とは、単に危険な事態が生じる可能性があるという抽象的危険性では足りず、現実に具体的な危険が生じている場合が対象とされています。

 「安倍やめろ」と叫んでヤジ排除された男性や「増税反対」と叫んで排除された女性の動画を見ても、いずれも危険が迫っている状況は確認できませんでした(警察官の行為のほうがよほど危険です)。

 また、道警は排除行為について、「危害防止のため通常必要と認められる措置」として、ヤジを飛ばした市民に有形力の行使を行ったと主張することが考えられます。たしかに、この措置は本人の承諾が不要であり強制的措置をとることも認められています。

 しかしながら、その前提として「特に急を要する場合」という要件が加重されます。これは措置を講じなければ危害を避けられないような状況となった場合を意味しています。

 動画では、排除された市民に具体的な危険が及んでいることが確認できない以上、例えば、暴走車がその市民に向かって突っ込んできたり、ヤジに反発する暴漢に襲われそうであるなど、有形力を行使しなければ避けられないほどの何か危険が差し迫った状況は全く見られません。

 更に言えば、そもそも道警は排除行為は、「トラブル防止」と説明していて、危害が及ぶ状況であったとは説明していませんでした。説明の変遷を見ても「とってつけた感」は否めません。


【3】 警察官職務執行法5条も根拠になりません

 警察官職務執行法5条についても同じように、要件を欠いています。

 5条は、「警察官は、犯罪がまさに行われようとするのを認めたときは、その予防のため関係者に必要な警告を発し、又、もしその行為により人の生命若しくは身体に危険が及び、又は財産に重大な損害を受ける虞があつて、急を要する場合においては、その行為を制止することができる」と定めています。

 ここでいう「犯罪がまさに行われようとするのを認めたとき」というのも、単なる抽象的危険では足りず、刑罰法規に該当する違法行為が行われる可能性が高いことが客観的に明らかになったことを意味しています。

 SNSなどでは、ヤジは演説妨害罪(公職選挙法225条2号)であるという指摘が見られます。しかし、演説妨害罪は、ヤジによって演説を聴き取ることが不可能又は困難になる程度が必要であり、判例や裁判例もそのような判断をしています(裁判例・判例は、大阪高裁昭和29年11月29日高刑特1巻11号502頁、最高裁昭和23年6月29日刑集2巻7号752頁)。

 また、シリーズ捜査実務全書「選挙関係犯罪」という書籍に、東京高検刑事部長(当時)が書いた演説妨害罪について説明していますが、そこでも「単なるヤジは、演説妨害の犯意が認め難く、一般の演説において許容される限度のものである限り、本罪の演説妨害罪には該当しない」と解説されています。繰り返しますが、東京高検刑事部長の解説です。

 したがって、いくら排除された市民が再びヤジを飛ばす可能性が高いとしても、ヤジが犯罪ではない以上、「犯罪がまさに行われようとするのを認めたとき」には該当しません。

 仮に、「犯罪がまさに行われようとするのを認めたとき」に該当するとしても、もう一つの要件として「人の生命若しくは身体に危険が及び、又は財産に重大な損害を受ける」という事態が必要です。安倍首相が非常にナイーブな性格だったとしても、ヤジにショックを受けて生命や身体に危険が及ぶことはないと思われます。

 このように、警察官職務執行法5条によっても、排除行為は正当化できないことは明らかです。

 また、そもそも警察官職務執行法4条は市民を危険から避難させる規定で、5条は犯罪を予防・制止する規定ですから、通常は同じ対象に対して両立することはありません。

 報道だけでも、道警は法的根拠を説明できていないことは明らかですし、道議会での説明も推して知るべしといったところです。


【4】 参考文献です

 なお、これまで警察官職務執行法の解説をしてきました。私は道警ヤジ排除弁護団の一員なので偏った意見だと思われてはいけませんので、念のため付言すると、上記解説は「警察行政法解説(第二版)」に依っています。著者は、警察庁出身の元警察大学校長です。

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