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目次

 弁護士の本橋優子です。
 元道職員SOGIハラ訴訟の判決についてご報告します。

1 はじめに

 札幌地裁は、令和5年9月11日、戸籍上同性のパートナーと事実上婚姻関係と同様の事情にあった原告が提起した、国賠法1条1項に基づく損害賠償請求(通称:元道職員SOGIハラ訴訟)に対して、請求棄却の判決をしました。

2 事案の概要

 北海道は、届出をした事実婚の異性カップルに対して、扶養手当の支給及び寒冷地手当の増額支給をし、共済組合も、届出をした事実婚の異性カップルに対し、扶養認定をしています。
原告は戸籍上同性のパートナーと事実婚の関係にありました。原告は、在職中、北海道に対し、平成30年7月23日と平成31年4月18日に扶養手当の支給、平成30年7月19日と平成31年4月18日に寒冷地手当の増額支給の届出をしました。しかし、これらの原告からの届出に対し、北海道は「認定不可」との判断をしました。
 また、原告は、共済組合に対し、平成30年7月20日に扶養認定の届出をしたにも関わらず、共済組合は、被扶養者の認定をすることができない旨の回答をしました。
北海道が手当の支給等をする際の判断基準及び共済組合が扶養認定をする際の判断基準では、どちらも、職員の「扶養親族」の内、配偶者については、「届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者(内縁の配偶者)」を含むとしています。
 しかし、北海道と共済組合は、事実婚の異性カップルと同様の生活をしていた同性カップルである元道職員の原告が手当の支給等の届出をしたにも関わらず、内縁関係を認めず、手当の支給等や扶養認定をしませんでした。
 本件は、元道職員の原告が、国賠法1条1項に基づいて、北海道に対して支給されるべきであった手当相当額の金銭の請求、共済組合に対して扶養認定がされなかったことによって被った金銭的損害の請求、及び両者に対して精神的損害の賠償を求めた事件です。

3 札幌地裁判決の要旨

(1) 国賠法1条1項の「違法」とは、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反することをいい、その違法性を判断するに当たっては、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく、漫然と当該行為をしたと認め得るような事情がある場合に違法となると解される。

(2) 給与条例や共済組合法は、「配偶者」、「婚姻関係」等について別段の定めを置いていないことから、これらの規程は一般法である民法上の婚姻に関する概念を前提として考えられるところ、本件各規定は婚姻の届出をできる関係であることが前提となっていると解するのが自然である。そして、給与条例や共済組合法において、民法とは異なって同性間の関係を含むとする明確な規定は見当たらない。そうすると、本件各規定における「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」には、民法上婚姻の届出をすること自体が想定されていない同性間の関係は含まれないと解することは、現行民法の定める婚姻法秩序と整合する一般的な解釈ということができる。

(3) 一部の地方公共団体において、本件各規定と同様の規定ぶりであっても同性間の関係を含み得るとして、柔軟な解釈や運用を試みる例があることが認められる。しかしながら、「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に同性間の関係も含まれないと解するのが現行民法の定める婚姻法秩序と整合する一般的な解釈であり、扶養手当の支給の目的や共済組合法の被扶養者に適切な給付を保障する趣旨等が、同性間の関係であっても当てはまる場合があるとしても、扶養手当の支給や寒冷地手当の増額支給が公的財源によって賄われ、また、共済組合法の各種給付も同様に公的財源を基盤としていることからすると、婚姻制度や同性間の関係に対する権利保障の在り方等について様々な議論がされている状況であることや、一部の地方公共団体において、同性間の関係を含み得るとして、柔軟な解釈や運用を試みる例があることを踏まえても、本件各規定における「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に同性間の関係を含むと解釈しなければならないという職務上の注意義務を個別の公務員に課すことはできないというべきである。

4 本判決の評価

 本判決は、原告の請求を棄却するために必要な判断のみをするという観点から、被告らの注意義務の有無に限って判断した判決です。そのため、同性間の事実婚に関する今後の訴訟において、参考になる点は少ないように思われます。
 また、本訴訟は、原告個人の権利救済だけではなく、日本全国に多くいる同性間の事実婚をしている職員やその他LGBTの問題に関わる人たちの希望となることを目指していました。そこで、原告の意見陳述等も行い、裁判官に対して、本訴訟の意義を伝えるように努めていました。しかし、本判決においては、原告が判断を求めていた憲法14条違反についての判断は全くなされない上に、何らの希望を示すような判示も無かったことに、弁護団の一員であった私は深く失望しています。
 原告が控訴をしなかったため、訴訟は終了しました。もっとも、現在、同性間の事実婚の関係にある職員の権利を保護する施策を始めた地方公共団体が増えつつあります。今後、生まれ始めた同性間の事実婚に対する権利保障の流れがより一層強まることを期待しています。

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