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弁護士の笹森学です。

◆→Z
前回はAIをとりあげました。
今回とりあげる蒲池幸子(かまちさちこ)こと坂井泉水(さかいいずみ)、すなわちアルファベット最後のZを冠したZARDの世界は、AIと対照的です。

*ここではZARDイコール坂井さんとして扱います。

1 1967年生まれの彼女は、AIが圧倒的パフォーマンスを見せた翌年の2007年、40歳の若さで亡くなりました。がんで闘病中、入院先の慶應大学病院の階段から転落しているのを発見された彼女は、その孤高を示すと同時に、まさにレジェンドとなりました。


2 ZARDの世界には、どんな場面だろうと、たった一人の「あなた」しか存在しません。

すなわち、「世界中の誰もが どんなに急いでも 私を捕まえていて」(Don't you see!)、「信じていても きっとFaraway 思い出になる だから今は行かないで欲しいの 抱きしめて 夢が消える前に」(Good-bye My Loneliness)、「もしあなたを忘れられたら それでもわたし生きていけるのかな」(Today is another day)、「My dream,Your smile 忘れようとすればする程 好きになる それが誤解や錯覚でも」(心開いて)、「きっと忘れない 眩しいまなざしを 信じたい 信じてる あなたが変わらぬように」(きっと忘れない)、「あなたを想うだけで 心は強くなれる」(マイ フレンド)、「今はあなた以外考えられない 胃が痛くなるほど こんなにはまるなんて 価値観は吹き飛んだ!」(世界はきっと未来の中)、「すべてを手に入れることが愛ならば もう失うものなんて 何も怖くない」(永遠)、「君の胸へと戻る時が来た 手を繋ぎ 今踏み出した 新しいこの宇宙へと」(ハートに火をつけて)・・・。

これらのリリックからは、今この刹那の2人こそが確実なもので、それ以外の人は風景にしか過ぎず、多くの他人との交わりには無関心で、自分の半径3メートルの恋愛にしか興味がないように見えます。これは、1対1の世界で得た愛を、お隣近所ひいては世界中に広めようとするAIのスタンスとの際立った違いに見えます。それは、揺れる想いの中での「こだわってた周りをすべて捨てて 今あなたに決めたの」、だから「in your dream」、すなわち<あなたの中で私は生きる>と決意するリリックに象徴されています。

このような彼女は、そもそも集団的自衛権の行使いかんには興味を持たないかも知れません。人々の愛と平和を気にすることなく、戦火も彼方の出来事と思っているのでしょうか?


3 しかし、それは違います。
ZARDの世界が閉ざされているように見えるのは、それがどのような形であれ、恋愛という極私的な問題には自分で対処するしかない、自分の来し方は自分で決着するほかはない、という強い意思が示されているからです。その意味でZARDの世界も、いわば極めて自律的で自立した女性のものなのです。したがって、2人以外の他人に無関心で他人を拒絶するものではありません。

同時に、だからこそ『無常に流れる時の中で今この一瞬をより良く生きよう』というメッセージが込められているのです。

それを証明したのが、ZARDが亡くなる2年前の2005年にリリースした後期の傑作「星のかがやきを」です。

それまで見つめ想う対象としてしか存在しなかった君(恋人)は「本気で世界を変えたいと思ってる私のヒーロー」となって具体化します。ZARDのリリックの中で「星のかがやきを」での変貌した彼の造形は特筆に値します。2人の閉ざされた世界を超えて、他人と当然に交わる広い世界へ羽ばたく、すなわち社会性のある恋人となったからです。

そして、「喧嘩しようよ 価値観をぶつけあって もっと大きく世界を目指そう」、「ちゃんと逢って 眼を見て話したいね 低空飛行やめ エンジン全開で」と化学反応を起こす互いに自立した積極的な2人として歌われます。だから「あんなに誰よりも近い存在だったのに 別れてしまうと他人より遠い人になってしまうね」と思っても、「何かが終われば また何かが始まる 哀しんでるヒマはない スタートしよう」と、別れがあっても、この時の流れの中で、2人が出会ったことが大切なのだ、と圧倒的に明るく、そして前向きなメッセージとなっています。

「何かが終われば また何かが始まる 哀しんでるヒマはない スタートしよう」というリリックに込めた思いは?と問われ、ZARDは何と<時は無常である>と答えたそうです。過去に囚われず今この一瞬をより良く生きよう、というメッセージを発し続けた彼女の真骨頂を示しています(彼女は、伝説の船上ファーストライブで、今日は「一期一会」と挨拶しています)。


4 では、「本気で世界を変えたいと思ってる私のヒーロー 眩しいね」と歌う時、彼女は自立した女性として、彼にどのようなイメージを託しているのでしょうか?

ZARDのメッセージの核心は「今この一瞬をより良く生きよう」ですが、その根底には「時は無常なり」という確信があります。そして、そのような感性が生まれた背景には彼女特有の体験があった筈です。その手懸りとして、ZARDの読書体験に「夜と霧」があったことを指摘してもいいでしょう。アウシュビッツの体験を記したV.E.フランクルの手記で、不朽の名著です。原題は「それでも人生に然りと言う。ある心理学者、強制収容所を体験する」です。そして、ZARDはファンクラブを通じてリルケとニーチェを薦めたと言われています。リルケの「若き詩人への手紙」には<朝から晩まで夢中になれれば、もはや君は詩人だ>という趣旨の一節があり、ニーチェは実存主義の巨匠です。まさに「無常に流れる時の中で今この一瞬をより良く生きよう」というZARDのメッセージの源流を見た思いです。そして、彼女の描く世界は、他人への攻撃や暴力とは全く無縁です。

そうすると、彼女が、「私のヒーロー」の胸の内に戦争もやむなしと考える感性を認めるとは到底思えません。

すなわち、ZARDが歌う「本気で世界を変えたいと思っている私のヒーロー」が安倍首相である筈がないのです。


5 したがって、「星のかがやきよ」を発表したZARDが集団的自衛権の行使に賛成するとは思えません。おそらく、表立って異を唱えないかも知れませんが、ZARDは、戦火の中でも今を大切により良く生きようとすると思います。そして、殺戮の戦火を悲しみ続けるでしょう。

そして本来は、グラウンドの片隅で、たった1人からたった1人に向けられたはずの「負けないで」の健気な気持ちを、あらゆる人々に向けたエールとして伝え続けたZARDにとって、自分のエールを届けようとした人々が殺戮に巻き込まれることを忌み嫌うでしょう。そして彼女の死後もコンサートに集い、その彼女を愛し支え続けたファンも、同じように集団的自衛権の行使に賛成するとは決して思えないのです。

◆このように30代〜40代の人々が、無関心のようでいて、本質的には集団的自衛権の行使を忌み嫌い、殺戮の戦争をやむなしと考える感性の持ち主であるはずはないのです。


◆・・・と書いて来たところで、共同通信の無作為アンケート結果が報道されていました(8月4日付け琉球新聞朝刊)。
それによれば、8月2、3日に共同通信が実施した電話調査で、集団的自衛権の行使に反対が60.2%(賛成31.3%)で前回調査より5.8ポイント上昇でした、閣議決定は説明不足が84.1%(十分12.7%)となりました。とりわけ、年代別では20〜30代では、集団的自衛権の行使に反対は69.7%(賛成24.5%)で前回調査よりも17.9ポイント上昇でした。

やはり、若い感性は捨てたものじゃない!のです。
NO PEACE,NO LIFE !


♥ このコラムは、AIとZARDのリリックを借りて筆者の想いを表現したもので、彼女たちの主義主張を断定するものではありません。

彼女たちは、例えば、人民解放軍的なものを支持するかも知れないし、例えば、スーザン・ソンタグのように正義の戦争を支持するかも知れません。
また、ブログ<ZARDな日記>に大変な影響を受けました。とても感謝します。

(おしまい)

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