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弁護士の池田賢太です。

4月15日、奨学金をめぐる裁判の判決がありました。当事務所の橋本弁護士が主任を務めた事件です。

この事件は、高校生のときに借りた奨学金の返還を求められたものです。本件の奨学金は、保護者が借入れ・返済を主導しており、元学生さんは全く知りませんでした。その後、元学生さんは自己破産されたのですが、その際、債権者一覧に奨学金を載せていなかったため、免責の効果が及ぶかが争点となっていました。

第1審の札幌簡裁では、元学生さんがご自身で裁判を進めていました。保護者が対応していたので、奨学金の貸付けは知らなかったと主張し、裁判所は「貸付けを認めるに足る証拠はない」として日本学生支援機構の請求を退けました。
この裁判に対し、機構が札幌地裁に控訴しました。控訴審では、返還誓約書が証拠として提出され、上記の争点がクローズアップされました。私たち弁護団は、控訴審での本人尋問が終わった段階で、この裁判に関わることになりました。このとき、札幌地裁は、元学生さんに和解の話合いを勧めており、元学生敗訴の心証を持っていたと思われました。私たちは、弁論再開を申し立てて、もう一度主張立証するところから再スタートしました。

私たちは、奨学金の特殊性や本人の認識・記憶に沿って主張を行い、保護者の尋問や立証の限りを尽くしました。
本当に元学生さんは奨学金の存在を知らなかったこと。保護者が、親の責任で借入れをしたこと。だから、債権者一覧表に奨学金が載っていなくても不思議は無く、過失もなかったのだ。
裁判所には、丁寧に説明したつもりです。

この裁判の中で、日本学生支援機構は、「個人メモ」という業務管理システムの画面を証拠として提出しました。この「メモ」には、元学生さん本人にも返還を請求していたことや、本人から破産手続をする予定だと聞いた、などと書いてありました。しかし、これらは、元学生さんの記憶とは異なるものでした。
そこで、私たちは、この「メモ」の正確性について徹底的に批判をしました。保護者が電話に出たにもかかわらず、本人に電話したと記載されていたこと。時折住所確認をした形跡が残っているのですが、住民票を追ってみると、「個人メモ」で住所確認した時点ではすでに別な住所に住民票を移していたことなどです。

今回の判決で、裁判所は、「業務システムに記録された内容の正確性には大きな疑問がある。」として、証拠の信用性にまで踏み込んだ判断をしました。この「個人メモ」は、同種裁判ではよく提出される証拠ですから、今回の判決が他の訴訟に与える影響はとても大きいと思います。

この元学生さんは、判決後記者会見を開き、おかしいと思ったら諦めないで戦ってほしい、相談してほしいとお話しされました。

私たちも同じ気持ちです。奨学金で悩んでいることがあれば、ぜひ一度ご相談下さい。解決の糸口が見つかるかもしれません。

以下、弁護団の声明も掲載いたしますので、ぜひ、ご一読ください。


奨学金裁判判決を受けての声明

2014(平成26)年4月15日

北海道奨学金問題対策弁護団
弁護士 西 博和
弁護士 山本完自
弁護士 池田賢太
弁護士 橋本祐樹

1 本日、札幌地方裁判所民事第1部は、独立行政法人日本学生支援機構(控訴人)が元奨学生(被控訴人)に対して奨学金の返還を求めた控訴審の裁判について、控訴人の請求を棄却する判決を言い渡した。
当弁護団は、この判決を素直に歓迎する。

2 本件は、元奨学生は、高校生時代に日本育英会から奨学金を借りていたものの、借入・返済等の全ては保護者においてなされ、元奨学生は借用証書等にサインはしたが、自ら借りたという認識はなかった。その後、元奨学生は自己破産手続を取ったが、債権者一覧には奨学金債務を記載しなかったという事案である。
札幌簡易裁判所での第1審では、元奨学生本人が訴訟を遂行し、「本件貸付けを認めるに足る証拠はない。」として日本学生支援機構の請求が棄却されていた。
控訴審においては、?元奨学生本人の認識・承諾のもとで、奨学金の貸付がなされたのか、?本件返還契約に基づく貸金返還請求権が破産法253条1項6号にいう「破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権」に当たるか否か、が争点となった。

3 札幌地方裁判所は、控訴審段階ではじめて日本学生支援機構が提出してきた借用証書の効力を認めた。奨学金の特殊性を理解せず、金銭消費貸借契約の一般論の枠でしか判断せず、?の争点で元奨学生の言い分を認めなかった。この点は、未成年者である高校生が、将来的な職業・収入もわからないにもかかわらず、多額の債務を負うことについて、その借入れの意味を正確に理解することが極めて困難であることを見過ごしている。奨学金を金銭消費貸借契約と同視するものであり、その実態を無視した判断と言わざるを得ず、この点は評価できない。
しかし、「本件返還契約に基づく債務の返済は、専ら被控訴人の母親がこれを行っており、本件借用証書に署名押印した以降、控訴人から被控訴人に対して本件返還契約に基づく債務を認識させる措置がなされておらず、本件借用証書署名当時、被控訴人が高校生であって、その後破産・免責申立まで6年経過していることも合わせ考えると、被控訴人が、本件破産・免責申立ての際に本件返還契約に基づく債権の存在を失念し、債権者一覧表に記載しなかったこともやむを得ないというべきであって、そのことについて被控訴人に過失があったと認めるには足りない。」と認定し、?の争点において元奨学生の主張を認めた。この点は、破産手続時における元奨学生の認識という実態に即した判断になっており評価できる。
また強調すべきは、日本学生支援機構が証拠として提出した「委託業者の業務システムの記録」の信用性について、「業務システムに記録された内容の正確性には大きな疑問がある。」としてこれを否定した点である。これは今後の同種裁判および日本学生支援機構の債権管理実務に大きな影響を与えるものであり、日本学生支援機構の実務改善に強く期待する。

4 当弁護団は今後も、日本学生支援機構による硬直的な取立て、個別事情を踏まえない形式的・一律的提訴から、元奨学生を個別的に救済するための活動を継続する。
それと同時に、本判決を受けて、奨学金問題の本質が、教育を受ける権利の保障であること改めて確認する。憲法上保障される教育を受ける権利が、家庭の経済的事情により左右されてはならない。将来を切り拓くための奨学金が、将来を奪うようでは本末転倒である。日本の中等・高等教育における高学費・貸与型奨学金が持つ問題点の改善に向けて、インクル(北海道学費と奨学金を考える会)、奨学金問題対策全国会議等とも連携を取りつつ、より一層努力することを表明する。

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