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 2020年12月11日、北海道議会は札幌市を除く道内の公立校で教員の労働時間を1年単位で調整する「変形労働時間制」の導入を可能とする改正条例案を可決しました。来年度から各市町村教委の判断で変形労働時間制を導入できることになってしまいました。
 当事務所の弁護士らは、北海道高等学校教職員組合連合会・全北海教職員組合の顧問弁護団として、変形労働時間制条例の拙速な制定に対し、抗議する声明を発表しましたので、全文を掲載いたします。


 『道内公立学校教職員に変形労働時間制の適用を許す北海道条例の拙速な制定に対する抗議声明』

1、北海道議会は、本日、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置条例の一部を改正する条例」(以下、「変形労働時間制条例」という。)を賛成多数で可決した。この条例の制定により、北海道内各地方自治体においては、公立学校の教職員に対して、1年単位の変形労働時間制を導入することが可能となった。

2、変形労働時間制とは、業務に繁閑が認められる事業において、厳格な要件の下に、1日8時間、1週間40時間以内という労働基準法の労働時間規制の例外を許すもので、対象期間を平均した労働時間が法定労働時間以内であれば、1日8時間を超えて仕事に従事させることを認める、という制度であるから、1年間を通じた全体としての労働時間を削減するものではない。
 このような変形労働時間制の導入は、労働者の労働時間を短縮に向かわせるのではなく、逆に恒常的な長時間労働を強いることになる危険性が高いことから、変形労働時間制の導入にあたっては、法は厳格な要件を定めており、また、地方公務員法は原則として変形労働時間制を導入することができないとしている。
 しかし、昨年改正された「公立の義務教育諸学校の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)において、各地方自治体が条例を制定すれば、地方公務員である公立学校の教職員に対しても変形労働時間制を導入できるとされた。
 これを受けて、本日、全国に先駆けて、北海道議会が変形労働時間制条例を制定したこととなる。

3、文部科学省は、本年1月17日付けで制定した「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針」(以下、「指針」という。)において、指針を定めた趣旨として、「教師の長時間勤務の実態は深刻であり、持続可能な学校教育の中で効果的な教育活動を行うためには、学校における働き方改革が急務。」であるとし、教員の超過勤務の上限を原則月45時間・年間360時間以内と定めた。
 そして、文部科学省は、1年の変形労働時間制導入にあたっても、超過勤務を指針で示した範囲内にすることが制度導入の前提であると説明してきた。しかし、北海道内において、教員の異常な超過勤務状態は解消されておらず、制度導入の前提を欠く。
 北海道としては、この異常な超過勤務状態を解消することが先決であり、これを改善することなく一年単位の変形労働時間制を導入すれば、指針に反する異常な超過勤務が続く状況を固定化することになりかねない。

4、北海道内の学校現場では、現在、新型コロナウイルス感染症の拡大という想定外の事態も加わり、教員らが向き合う課題は複雑かつ過大となり、それに応じて、勤務時間も恒常的に超過状態となっており、教員らの心身の健康を害する危険が増加している。
 教員の長時間労働は、労働環境の問題であると共に、憲法26条1項が保障する子どもの教育を受ける権利の内容の問題である。
教員の異常な超過勤務状態のもとで、我が国の次代を担う子どもの教育の権利を十分に保障することは到底できないし、このことは、10年先、20年先の将来における我が国のあり方自体に深く関わってくる問題である。

5、本条例は、教職員の超過勤務の実態の是正はもとより、これを今後如何に是正するかの見とおしすら立てないままに制定されたものであるうえ、労働基準法が本制度の導入にあたり、労働者の権利保障の見地から求めている労使協定が、条例上は要件とされていないことの代償をどう措置するか、学校現場では本制度の運用をどの程度強く求めているかなど、条例が予定している制度運用上必須の人事委員会規則や各地方教育委員規則による制度設計の要諦をどこにおくかなど、十分に審議されることなく、制定されたものであり、その制定過程における審理過程や制定手続において無視できない問題点を抱えるものである。

6、以上より、当弁護団は、変形労働時間制条例の拙速な制定に対し、抗議するものである。

   2020年12月11日
       北海道高等学校教職員組合連合会弁護団
             全北海道教職員組合弁護団

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