logo_sq

アップロードファイル 119-1.pdf

2月20日、札幌弁護士会を通じて、札幌高等裁判所・札幌地方裁判所が、入庁者に対して所持品検査を行うとの連絡を受けました(職員や事件当事者に対する危害行為が発生したとのこと)。
この所持品検査は、金属探知器を使用する(空港の手荷物検査と同様)に先立って手荷物の開披を求める運用とのこと。この所持品検査がプライバシーの侵害であることは明らかであることなどから、当事務所は、以下のとおり、札幌高等裁判所長官宛に「裁判所入庁者に対する所持品検査に関する抗議書兼要求書」を提出しました。



札幌高等裁判所 長官 山 崎 恒 殿

2013年(平成25年)2月28日
〒060-0042
札幌市中央区大通西12丁目
北海道高等学校教職員センター
北海道合同法律事務所
弁護士 佐藤哲之
弁護士 石田明義
弁護士 長野順一
弁護士 内田信也
弁護士 笹森 学
弁護士 佐藤博文
弁護士 川上 有
弁護士 渡辺達生
弁護士 三浦桂子
弁護士 安部真弥
弁護士 中島 哲
弁護士 山田佳以
弁護士 香川志野
弁護士 池田賢太
弁護士 橋本祐樹


裁判所入庁者に対する所持品検査に関する抗議書兼要求書

第1 申入の趣旨
当事務所及び当職らは、札幌高等裁判所が、本年3月1日から実施する旨決定した、高裁・地裁庁舎(本館・別館の玄関)における入庁者に対する所持品検査(以下、「本件所持品検査」という。)に対し強く抗議し、当該所持品検査実施方針の撤回を求める。

第2 申入の理由
1 開かれた裁判所(公開の裁判の保障)の実現に反する本件所持品検査
(1)裁判所の義務
憲法82条第1項は、「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」として、裁判の公開を制度的に保障している。これは、立法・行政から独立した裁判所に対する民主的統制の一環としての側面があり、司法の正当性の根拠ともいえるのであって、「公開法廷」は形式的だけでなく実質的にも保障されなければならない。従って、裁判所は、実質的にも公開法廷を実現する義務を負う。
また、裁判所は、近年、さかんに「市民に開かれた裁判所」を標榜し、地・家裁委員会を設置したり、市民への広報に努めるなど、それなりに活動してきた。これは、裁判所が、開かれた裁判所を実現することを市民に対して約束してきたことを意味する。従って、裁判所は、この市民に対する公的な約束を遵守する意味でも、開かれた裁判所を実現する義務を負う。
(2)所持品検査の持つ意味(プライバシー侵害性)
所持品検査は、一般的にプライバシー侵害を伴う。そうであるからこそ、職務質問に伴う所持品検査についても、司法は厳しい制約を課している。特に本件所持品検査は、金属探知器を使用するに先立って手荷物の開披を求める運用とのことである。
手荷物の開披を求めるということが、外部からの金属探知器によるものに比べ遥に大きなプライバシー侵害であることは明らかである。このような所持品検査が、裁判所を訪れた市民にとってどれほど大きな苦痛を与えるものであるかは、容易に想像がつくものであるから、かかる所持品検査の実施のためには、十分な立法事実と関係各所からの意見聴取や協議をおこなうなど慎重な検討経過を必要とするというべきである。
(3)施設管理権について
各公的機関には、それぞれに施設管理権が存在する。しかし、施設管理権が 無制約な行使が認められるわけではない。当該施設の属性や担っている職務及び義務と、施設管理権を行使すべき必要性及びその手段の相当性との関係において、是認される範囲は異なってくると考えられる。
この点、裁判所には、前記(1)のとおり、「公開の法廷」、「市民に開かれた裁判所」の名にふさわしい環境を確保する憲法上の義務があるのであって、施設管理権の行使として新たな制約を設ける場合には、十分な必要性と相当性がなければ認められないというべきである。
(4)立法事実の不存在
裁判所には、紛争当事者を含め多様な属性を有する市民が出入りする。従って、紛争の最中にある者らが激高して、暴力的手段を用いる抽象的危険が存在するとはいえる。しかし、裁判所に限らず、公的機関では多かれ少なかれこのような市民が出入りするのであって、必ずしも裁判所だけが突出してかかる危険性が高いということはできない。
そうであれば、公開法廷を憲法上義務づけられた裁判所(そして、裁判所内で職務を行う市民の公僕である裁判官・裁判所職員)が、市民の一般的な暴力性を理由に、強いプライバシー侵害行為である所持品検査を行うことが正当化されることはない。
従って、裁判所が市民に対して所持品検査を実施するためには、その必要性を根拠づける立法事実が必要である。
しかし、当事務所及び当職らは、少なくとも近時、貴庁において、かかるプライバシー侵害性の強い所持品検査を必要とするような危険行為が発生したとの事実を知らない。
仮に、一定の危険行為があったとしても、所持品検査、特に本件所持品検査の態様でのものを実施するためには、他のより緩やかな権利侵害にとどまる手段を持ってしては防止し得ないほど強い危険性を有した行為が存在しなければならないと考えられるところ、かかる危険行為があった旨の情報はない。
従って、貴庁における本件所持品検査を正当化する立法事実はないというべきであるから、本件所持品検査は、施設管理権の裁量を逸脱する違法な行為である。
(5)関係各所からの意見聴取等の不存在(手続き上の瑕疵)
上記(2)のとおり、市民のプライバシー侵害性の強い所持品検査の実施のためには、開かれた裁判所としては、慎重な検討過程を持つべきである。
そうであれば、裁判所はその利用度が最も高く、市民、特に裁判所を利用する市民との関係が強い弁護士・弁護士会から意見を聴取すべきであり、その声に真摯に耳を傾けるための協議の場を設ける必要があった。
しかし、貴庁は、北海道弁護士連合会や札幌弁護士会に対して、一切の意見聴取を行わず、一切の協議の場を設けることもなく、本年2月18日に一方的に本件所持品検査の実態を通告してきた。そればかりでなく、貴庁は、かかる通告を受けた札幌弁護士会からの、書面による正式な協議申し入れに対し、これを拒絶した。
これは、裁判所の対応としてあるまじきものと言わざるを得ず、手続違背の非難を免れない。
(6)以上から、貴庁の本件所持品検査の実施は、施設管理権の濫用であって認めることはできないので、強く抗議するとともにその撤回を求める。

2 弁護士・弁護士会との関係での不誠実性
(1)弁護士会との信頼関係の破壊
これまで、裁判所と弁護士会は、立場の違いを超え、同じ法曹として密接な協力関係を持ってきた。それは、法曹として、法の支配の実現をはかるという意味で、共通の基盤を有するとともに、これまでの相互の活動について相当の評価を与え、信頼関係を築いてきた結果である。
もちろん、別組織である以上、裁判所、弁護士会ともに独自に決定することが前提であり、常に相互の協議を必要とするわけではない。
しかし、相互に強い影響を及ぼす可能性のある事項については、事前の協議を行ってきた。特に、裁判所庁舎利用に関する問題は、最も利用度の高い弁護士・弁護士会の理解と協力が不可欠なはずである。
(2)弁護士業務への不当な侵害
本件所持品検査は、弁護士には直接適用がないとするものの、それは徽章の提示が前提となっているところ、徽章の携行を失念することは誰においてもあり得るのであり、かかる徽章の携行を失念した弁護士についての取扱が示されていないこと、徽章の代替物として日本弁護士連合会が発行する身分証を認めていないことなどを考えると、弁護士が常に所持品検査の対象から除かれるわけではないようである。
仮に、弁護士への所持品検査が鞄を開披することを内容とするならば、それは明らかな弁護士業務への不当な侵害である。弁護士の携行する鞄等の内容物は、依頼者をはじめとする個人のプライバシーの集合体といっても過言ではなく、仮に貴庁がその内容に立ち入らないと表明しても、表面上からも一定のプライバシー情報は明らかになりうるのであるから、やはり弁護士業務への不当な侵害行為である。
さらに、事務員に対する身分証の持参の義務づけも不当である。
事務員は、多岐に渡る外勤があるのであって、出先から急遽予定を変更して裁判所に赴かなければならないこともある。また、身分証の交付が1事務所1枚に限定されていることは、複数事務員を抱える多くの事務所にとって緊急的対応を困難にするし、大規模事務所にはおいてはその弊害は著しい。
以上から、本件所持品検査及び身分証提示の義務付は明らかに弁護士業務に対する不当な侵害である。

3 結語
以上から、当事務所及び当職らは、貴庁による本件所持品検査の実施に強く抗議し、その撤回を求める。
なお、高裁・地裁が本抗議・要求にもかかわらず本件所持品検査を強行実施するならば、当職らは、国民に与えられた権利の行使を辞さない。当職らはかかる権利行使を留保するものであること付言する。

この記事を家族・友達に教える

TOP