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 弁護士の小野寺信勝です。

【1】 検察庁による不起訴処分 
 昨年7月に安倍首相の街頭演説の際に、道警が「安倍やめろ」などとヤジを飛ばした男性らを排除した問題について、札幌地検は警察官らを不起訴処分にしたと発表しました。

 私たちが排除された男性の代理人として、特別公務員暴行陵虐罪と特別公務員職権濫用罪という犯罪で刑事告訴していましたが、検察庁は「罪にならない」ことを理由に不起訴にしたようです。また、報道によれば、地検は「適法な職務行為」であったとコメントしているようです。

 しかし、道警の排除行為が「罪にならない」は無理筋の詭弁でしかありません。

【2】 特別公務員暴行陵虐罪にあたること

 特別公務員暴行陵虐罪とは、「(1)裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、(2)その職務を行うに当たり、(3)被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたこと」を処罰対象にしています(条文に便宜的に番号を振りました。以下同じ)。

 上記3要件のうち、(1)警察官が警察の職務を行う者であること、(2)ヤジ排除が警察官の職務として行われたことに争いはありません。

 そして、(3)にいう「暴行」ですが、これは「怪我をさせた人の身体に対する直接又は間接の有形力の行使を意味するものであり、人の生理的機能に障害を生ぜしめたり、その健康状態を不良ならしめたりいわゆる障がいの結果発生の程度に達することを必要とするものではない」(東京高裁昭和30年7月20日判決・東高刑時報6巻8号249頁)と言われています。

 難しい表現ですが、簡単に言うと、怪我をさせるような暴力までは不要ということです。特別公務員暴行陵虐罪でいう「暴行」は、公務執行妨害と同じく軽微な暴力でも「暴行」にあたります(警察官は軽微な暴力でも躊躇なく公務執行妨害で逮捕するのはこのためです)。そのため、道警の排除行為が「暴行」に該当しないということはできません。

 したがって、道警の排除行為が特別公務員暴行陵虐罪にあたることは明らかです。

【3】 特別公務員職権濫用罪にあたること

 また、道警の排除行為は、特別公務員職権濫用罪にもあたります。

 特別公務員職権濫用罪は、「(1)裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が(2)その職権を濫用して、(3)人を逮捕し、又は監禁したとき」が処罰対象です。

 (1)は前述のとおりです。(2)は北海道警察の職務行為が違法であることを言います。道警は警察官職務執行法4条・5条を根拠に排除行為をしていますが、警職法4条・5条によって正当化できないことは、2月20日の弁護士コラムで指摘したとおりです。それ故、職権の濫用にあたることも明らかです。
http://www.hg-law.jp/column/other/entry-3091.html

 そして、(3)の「逮捕」とは、留置所に入れるようなことを想定される方も多いと思いますが、刑法上は、「人の身体を直接的に拘束してその身体活動の自由を奪うこと」をいいます。身体を掴んで動けなくさせる行為も「逮捕」にあたります。

 このように、道警の排除行為が特別公務員職権濫用罪にあたることもわかると思います。

【4】 道警の排除行為は「正当行為」(刑法35条)にあたらないこと

 これまで説明したとおり、道警の排除行為が特別公務員暴行陵虐罪、特別公務員職権濫用罪のいずれの「罪にあたること」は否定できません。そこで、検察庁は、「適法な職務行為」であることを理由に、「罪とならない」と判断しました。

 地検は「適法な職務行為」の具体的根拠を明らかにしていませんが、道警と同じく警職法4条と5条による適法性を追認して、道警の排除行為は刑法35条の正当行為にあたると判断したと思われます(但し、特別公務員職権濫用罪は、「職権の濫用」にあたらないと判断した可能性があります)。

 これは正当防衛を例にとるのが分かりやすいと思います。ある人が暴力を振るって人に怪我をさせた場合、傷害罪にはあたりますが、正当防衛が成立する場合は違法性がなくなり罪にはなりません。同じ理屈で、特別公務員暴行陵虐罪にはあたるけど、正当行為なので違法性がなくなり罪にならないと判断したわけです。
 つまり、地検は、特別公務員職権濫用罪等にあたらないことを理由に「罪とならない」と判断したのではなく、道警の排除行為は特別公務員職権濫用罪等にあたることを前提に、「適法な職務行為」として違法性がなくなるが故に「罪とならない」と判断したのです。

【5】 検察官は違法行為を追認した

 私たちは、地検と道警は同じ捜査機関なので、不起訴処分はあり得るとは思っていました。しかし、その理由は、嫌疑不十分か起訴猶予だろうと予想していました。

 もう少し詳しく説明すると、検察庁の不起訴処分は、(1)訴訟条件(親告罪の告訴等)を欠くことを理由とするもの,(2)事件が罪にならないことを理由とするもの(心神喪失を含む。),(3)犯罪の嫌疑がないこと(嫌疑なし)又は十分でないこと(嫌疑不十分)を理由とするもののほか,(4)犯罪の嫌疑が認められる場合でも,犯人の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないこと(起訴猶予)の4つに大別されます。

 ほとんどの不起訴事件は(3)嫌疑不十分又は(4)起訴猶予です(不起訴処分のおよそ9割)。本件は警察官の行為が職務執行法4条・5条の要件を充たさずに違法であることは明らかなので、地検としては、有罪立証の証拠が不足しているので嫌疑不十分、または、警察官の行為は罪にあたるものの諸般の事情を総合衡量して起訴猶予、という処分だろうと予想していました。嫌疑不十分か起訴猶予であれば、積極的に道警の排除行為の適法性を積極的に判断する必要がないからです。

 ところが、不起訴理由は(2)事件が「罪にならない」でした。地検は道警の職務行為が適法だと積極的に評価しました。

 2月20日の弁護士コラムで道警の職務行為が明らかに違法であることを指摘しましたが、およそ法律家であれば、道警の行為を「適法」だと認定することは不可能です。というのも、これは解釈や見解の相違ではなく、明らかに明文に違反しているからです。

 検察には「公益の代表者」として警察官の行きすぎた行為をチェックする役割が期待されています。ところが、地検は道警の違法行為を追認しました。この判断は地検が国民から期待された役割を自ら放棄したことの宣言と受けられます。検察の矜持はどこにいったのでしょうか。

 また、道警は2月26日に道議会総務委員会で排除行為の法的根拠を説明することになっていました。そして、検察庁の不起訴処分は前日25日。このタイミングを考えると、地検と道警は、法的根拠について摺り合わせをしたのだと思います。

 今回の告訴では道警は被疑者が所属する組織にあたります。地検と道警が不起訴にあたり協議したのであれば、地検は被疑者のいる組織と協議をして、不起訴処分に持ち込んだということになります。これは「談合」「癒着」です。

 地検が暴力団組員を不起訴にするために暴力団と協議したことがわかれば、大問題になるはずです。今回の不起訴処分はこの例えに等しいと思います。これでは地検の判断に理解が得られるとは思えません。

 ここまで努めて冷静に書いたつもりですが、本音を言えば、同じ法律家として違法行為を追認した地検には非常に頭にきています。したがって、地検の判断には、次の感想しか抱くことができません。

         「恥を知れ」

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