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弁護士の小野寺信勝です。

本日11月1日から介護分野の技能実習が施行されることになります。

技能実習の対象職種は拡大の一途を辿ってきましたが、はじめて対人サービスに門戸を開いたことになります。

実習制度による受け入れという根本的問題はありますが、それ以外にも介護分野への拡大にはいくつか問題が残されています。

【1】 一つは、介護に必須のコミュニケーション能力の問題です。

介護分野ではすでにEPA介護福祉士候補者の受け入れが先行しています。日本はインドネシア、フィリピン、ベトナムとの間でEPA(経済連携協定)を結び、看護師・介護福祉士の候補者を受け入れています。受入施設へのアンケートによれば、約9割が日本語能力試験「N3」(N3は日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる)以上のレベルを求めています。

ところが、介護技能実習生が来日時に必要な日本語能力は「N4」(基本的な日本語を理解することができる)にとどまります。対人サービスの日本語能力として十分なのか疑問は残ります(なお、EPAでもベトナムからの受け入れの場合、「N5」が要件ですが、その訪日前に12ヶ月の日本語研修が義務付けられており、日本語能力の習熟に一定配慮されています)。


【2】 介護の知識・経験の問題もあります。

EPAでは派遣国の介護士認定や看護学校卒業者を受け入れるため、介護福祉士候補者は、介護に関する一定の知識や経験を有しています。他方、技能実習では外国で同種業務に従事した経験があるか、又は「技能実習に従事することを必要とする特別の事情があること」という曖昧な要件が設けられているにすぎません。

技能実習では、常勤職員30人以下の事業所の受入上限は、常勤職員総数の10%とされています。これは21~30人以下の事業所では技能実習1・2号全体で9人の実習生を受け入れが可能であることを意味します。

こうした要件に照らせば、運用によっては介護の知識・経験が乏しい実習生が大量に受け入れられるおそれがあります。介護の質の確保が課題になりそうです。


【3】 実習生側から見ると、技能実習制度という建付故に、賃金が抑制されることが予想されます。

EPAでは日本語等の研修のために政府の補助金が準備されています。しかし、技能実習では実習に対する直接の補助金はないため、実習にかかる費用は実習生と監理団体・実習実施機関が負担する必要があります。

また、技能実習の多くは監理団体を通して実習生を受け入れる団体監理型による受け入れです。団体監理型では実習実施機関が協同組合等に支払う組合費の負担も少なくありません。

介護に限った話ではありませんが、実習生の多くが最低賃金で働いていることを踏まえると、実習実施機関の負担が実習生に転嫁されているとも評価できます。

介護分野の賃金について、他の実習対象職種と異なる配慮措置はないので、おそらく介護実習生も最低賃金程度の低賃金になることが予想されます。


【4】 事業者側から見ても、実習制度による受け入れは必ずしも需要に適っていないように思えます。

これまで、外国人労働者を受け入れる場合、永住者等を除き、EPAしか受け入れる方法がありませんでした。しかし、EPAによる受入は2009年度から累計4,700人超に過ぎません。

EPAの受入施設の条件のハードルの高さから、受け入れたくても受け入れられない介護現場にとって、技能実習生の受け入れはとても魅力的にうつることでしょう。

しかし、仮に介護技能実習生の受け入れが順調に進んだとしても、受け入れ側にはなお一定のリスクが伴います。

例えば、実習制度ではその制度目的から、事業者は機構に提出した技能実習計画に従ってOJTを実施することが義務付けられています。事業者は実習生を自由に使えるわけではないのです。この計画を遵守しないと労基法や最賃法を守っていても不正行為認定され、実習生の受け入れができなくなってしまいます。

前記のとおり、30名以下の事業所で9名の実習生を受け入れている場合、9名の実習生の受け入れが停止されてしまうと、事業の存続が危ぶまれてしまいます。受け入れ事業所は常にこのリスクを抱えることになります。


介護業界の苦境はよくわかりますし、受け入れることを責めることはできませんが、それでも事業者、実習生、利用者どの面から見ても、不安が残ります。

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