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再審の手続

 

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(駿府城の水面に舞う桜吹雪)


弁護士の笹森学です。

現在、私の唯一の本州出張事件は「袴田(はかまだ)事件」という再審請求事件で、静岡地裁で行われています。
袴田事件はこのコラムでも何回か報告していますが、今回は<再審の手続>について分かり易く説明してみたいと思います。

「再審」とは、裁判をやり直すことで、刑事事件では間違った有罪判決を正す手続です。間違った有罪判決を正すということは裁判所がひとたび決めた判決をひっくり返すということです。
日本の刑事裁判は基本的には三審制で、地裁、高裁、最高裁と3回裁判を受けられます。受け終わると刑事裁判の判決が「確定」します。確定するとは、裁判所が、誰かが犯罪を犯した事実があったと決めたうえ、その者の刑を決めたことが「誰にも動かせなくなる」ことです。
それをひっくり返すのですから、再審をするための条件は厳格です。
まず、再審の裁判を開くことを決めてもらわなくてはなりません。これを「再審開始を請求する」と言います。

再審開始の請求が認められるには、大別して2つの場合があります。
1つ目は、裁判に関わった警察や検察に証拠偽造などの不正がありそのことが裁判で確定されたような場合です。
2つ目は、常識的な一般人が合理的に考えて、確定判決が間違っているのではないかと疑わせる新しい証拠を発見できた場合です。ほとんどの再審請求は、この2つ目のやり方で行われます。この場合が「有罪の判決を受けた者に対し、無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したとき」(刑事訴訟法435条6号)です。一般には「新証拠が発見できた場合」と呼びます。
再審請求を受けた裁判所が、新証拠が発見できた場合と認めると、「〜が言い渡した有罪の判決につき、再審を開始する」との決定を下します。
この決定に対しては、有罪の判決を受けていた者または検察官が基本的には高裁へ即時抗告、最高裁へ特別抗告することができます。結局これまた3回裁判が行われ、「再審開始」の決定が「確定」すると、ようやく「再審の裁判」が開始されることになります。

そして、再審の裁判は「確定した判決が言い渡される直前」から再び審理が始められることになるのです。

「袴田事件」は、袴田巌さんという元日本ランカーのプロボクサーが、1966(昭和40)年6月に静岡県清水にある味噌会社で専務一家4人を小刀で刺し殺して現金を奪い火を放ったとして起訴された住居侵入・強盗殺人・現住建造物放火事件です。袴田さんは警察で連日十数時間にも及ぶ厳しい取調べを受け、寝るために一旦床に入ったが起きてパジャマで犯行に及んだ、との自白をさせられました。ところが翌年8月、工場の味噌樽から血染めの「5点の衣類」(白半袖シャツ、緑のブリーフパンツ、ステテコ、スポーツシャツ、鉄紺色ズボン)が発見され、検察官はこれが犯行着衣だとして主張を変更、静岡地裁はパジャマで犯行に及んだとする袴田さんの自白調書45通のうち44通を信用できないとして証拠から排除しながら、死刑判決を下しました(白半袖シャツの破れた右肩部分にB型血痕が付着しているのは犯行時の格闘で生じた袴田さんのものでシャツは袴田さんの物との大きな根拠とされています)。高裁ではズボンを履けませんでしたが、袴田さんが太りズボンが縮んだとして死刑は維持され、最高裁でも5点の衣類は袴田さんの物として死刑が確定しています。

袴田さんは精神を病んだため、現在、姉の袴田ひで子さんを保佐人として第2次再審請求をしています。
今回の再審請求では、血染め5点の衣類について2人の法医学者によるDNA鑑定が実施されました。弁護側推薦の鑑定人は5点の衣類から発見されたDNAは袴田さんのDNAではなかったとしました。検察側推薦の鑑定人も半袖シャツの右肩血痕部分のDNAは袴田さんの DNAではなかったとの結論を出しています。
弁護側では袴田さんの犯行を疑わせる新証拠だと主張して、引き続き証拠調べや証拠開示を求めています。検察側はDNAの鑑定結果は「再現性のない」(2度と同じ結果を出せない)もので証拠価値はないと反論しています。

私は、2人の鑑定人を尋問し、DNA専従弁護人2人と協力して100頁を超えるDNA鑑定の結果についての「意見書」を作成しました。2人のDNA鑑定結果は新証拠にあたるとするものです。3月28日に静岡入りし、29日の昼まで意見書の最後の仕上げをして、夕方に記者会見をして来ました。
静岡地裁は駿府城址外のお濠端に建っています。城址内のお濠端には大きな枝を伸ばした桜が並んでおり、当日は桜吹雪がお濠の水面を覆って、とても素敵な光景でした。
さて、再審請求は「桜咲く」なのか「花と散る」のか。私の胸は張り裂けそうです。

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