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 弁護士の佐藤博文です。

 5月15日は、1972年に沖縄県が米国統治下から日本に復帰して50年を迎えます。復帰の「ドラマ」や復帰後の「発展」「課題」が報道されていますが、そもそも、8月15日のポツダム宣言受諾後、なぜ27年もの間、米軍や米国の占領下にあったのでしょうか。
 というのは、1943年12月の「カイロ宣言」で、「自国のためになんらの利得をも欲するものに非ず、また領土拡大のなんらの念をも有するものに非ず」という領土不拡大が、第2次大戦の戦後処理の原則として確認されており、現に、日本がロシアに対して北方領土の返還要求をする国際法上の根拠もここにあるからです。

 私が、このような疑問を持ったきっかけは、ロシアのウクライナ侵攻です。2014年以降、ロシアがクリミアとドンバス地方に侵攻して支配しているやり方が、戦後の米国と沖縄の関係に似ている、戦争とはこういうものかと思ったからです。

 1945年4月1日、沖縄本島に上陸した米軍は、即日、沖縄における日本の行政権と司法権の停止と占領の開始を宣言する「ニミッツ布告」を公布しました。私たちには、沖縄戦と言えば米軍との戦闘イメージですが、米国からすると占領に従わない者への掃討作戦なわけです。その結果、米軍は日本軍と地上戦を繰り広げ、多くの住民がその犠牲となり、生き残った住民のほとんどは、米軍が各地に設置した民間人収容所に入れられました。

 ポツダム宣言受諾後の8月20日、解体した沖縄県庁に代わる沖縄本島の統治機関として、米軍によって「沖縄諮詢会」が設置され、行政を直接管轄しました。同年9月20日には、さっそく市町村長、市町村議会の選挙を実施し、投票は収容所で行われました。
 1946年1月にはGHQ指令により、北緯30度以南の南西諸島全域における日本の施政権を停止し、鹿児島県大島郡(奄美群島やトカラ列島)も分離されて軍政下に入りました。

 ウクライナでは、クリミアでロシア軍による住民投票が行なわれて併合され、ドンバス地方でもロシア軍による選挙の実施が予定されています。統治の「正統性」を調達するためにやることは同じだと思いました。

 1949年、東西冷戦が激化し、朝鮮半島など極東地域の軍事的緊張が高まると、米国は沖縄に大規模な軍事基地や施設を次々と建設しました。その結果、沖縄本島は極東最大の米軍基地へと変わり、「太平洋の要石 (Keystone of the Pacific)」となりました。米国がベトナム戦争(1961年〜1975年)が遂行できたのは沖縄の米軍基地が「不沈空母」の役割を果たしたからでした。

 1952年4月28日、サンフランシスコ講和条約が発効しましたが、その第3条で、沖縄は国連信託統治地域とすることが予定され、米国から国連に提案された場合、北緯29度線以南の南西諸島を米国の信託統治下に置くことに日本国は同意するとありました。これは主権(領土)の放棄と言えるものですが、歴代の自民党政権はこの過ちを認めていません。どの口が「尖閣列島は日本固有の領土」と言うのかと思います。

 そのため、4月28日は、本土では占領に終止符を打って独立を果たした記念日とされていますが、沖縄や奄美では、日本 から切り離され、「本土」の米軍基地が沖縄へ移転され、日本国憲法が適用されず、人権が蹂躙され続けた「屈辱の日」とされています。
 そして、米国はというと、沖縄を信託統治下に置く提案を国連にすることなく、占領を続けました。ちなみに、戦後の国連の下で11の信託統治領がつくられましたが、1994年のパラオ独立で全部なくなりました。もし沖縄が米国の信託統治領になっていたら、もっと複雑で困難な歴史をたどらざるをえなかったかもしれません。

 サンフランシスコ講和条約発効後の沖縄では、「沖縄諮詢会」に代わり琉球政府が創設され、トップである行政主席は米国によって任命されました。琉球政府の末期には住民の直接投票で行政主席が選出されるようになりましたが、米国は琉球政府の決定を破棄する権限を持っていましたので、琉球政府の主権は制限されたものでした。

 しかし、住民の投票で選ばれる立法院の議員たちはアメリカの意に反し、しばしば日本復帰決議を採択。沖縄返還の原動力の一つとなりました。
琉球政府における住民側の各統治機構は、住民の食糧や住宅の確保にはじまり、戸籍や地籍の回復、言論出版などの諸権利の回復、軍用地や基地問題、主席公選、そして本土復帰という、戦後復興から自治権拡大に向けて、血のにじむ努力で実に多くの事を成し遂げてきました。これが現在の「オール沖縄」の源流だと思います。

 こうした歴史のうえに1972年5月15日があったということに、私は感動を覚えます。改めて、沖縄の歴史を知ることは、日本の本当の戦後史を学ぶことだと思います。

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